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創作ドウワ

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遅くなったメリークリスマス

「あ~、今日も寒み~!」

ボサボサ頭のマサの朝の第一声がこれだった。

「冬だから寒いのは当たり前じゃん」 と口には出さず心の中で毒づく。

「仕事行くのがやんなっちゃうよね~」

と同意を求めながら大欠伸をするマサ。

それには返事をせず、朝のTVニュースを聞きながらメイクを続ける私。

「居候のくせに、まるで自分が働きに行くようなことを口にしている」 
と、また心の中で毒づいている。

朝の忙しい時間帯は、ゆっくりテレビを見ている暇なんかあるわけない。
それでもテレビをつけているのは、今の時間と今日の天気が知りたいからだ。
だから、テレビを見るというより聞いていると言った方が合っている。

さっき聞いた天気予報では、昨日よりさらに冷えるということだ。
夜には冷たい雨も降ってくるらしい。
「今日は何を着て行こう」、シャドウをひきながらそんな事を考えていた。

「朝飯の支度が出来たぞ」

マサが味噌汁をお椀に入れながらキッチンから呼んでいる。

ありがたい事に、マサは手際が良い。
さっきまで、くしゃくしゃな頭で大きな欠伸をしていたのに、もうさっぱりと
髪を整え顏も洗ってサッパリしている。

マサが来てから紅は最後にひくようになった。

マサは居候だから、いわゆる主夫をしてくれるのは助かるが、
マサと一緒に住むようになって、私の言葉使いが少し乱暴になった気がする。

マサと私の付き合いはほんの一週間前からだ。

マサを私は一週間前に偶然拾ったのだ。

拾ったというと変に聞こえると思うが、本当に拾ったのだ。




私は、4歳のクリスマスイブに父を亡くした。
父は私をとても可愛がってくれていたのを覚えている。
父が仕事から帰ってくると、私の指定席は父の膝の上だった。

私がチョコンと膝の上に座ると、父は嬉しそうに絵本を読んでくれた。
いろんな絵本を読んでくれたが、特に私のお気に入りは「くまのプーさん」だった。


いつものように、「くまのプーさん」の絵本を読んでくれている時だった。
絵本のイラストのプーさんの表情がすごく可愛かったので

「クリスマスのプレゼントはプーさんがいいな」と私が言うと

「そうだね、パパも欲しいな。じゃあパパと一緒にサンタさんにお願いしようか?」

そう言うと、一緒に目をつむり、天井に向かって両手を合わせ、二人でお願いをした事をうる覚えに記憶している。
そんな二人を母も嬉しそうに眺めていた。幸せだった。

そんな父がクリスマスイブの夜、車にはねられて亡くなった。
酔っ払い運転だったらしい。らしいというのは、犯人が捕まらなかったからだ。
ひき逃げに遭ったのだ。

父の遺体のそばに、くちゃくちゃになった「プーさんのぬいぐるみ」があったというこを
大きくなってから母が私に話してくれた。

私は泣いた・・・

それからの日々は大変だった。特に母が大変だったと思う。
わずかばかりの貯金を取り崩してなんとか生活していた。
台所の隅で途方に暮れて、泣いている母を見た事もたびたびだった。

母は生活のためパートに出る事になり、私は近所の託児所に預けられるようになった。

母が働くようになって、少し家計が楽になったのだろう、母がお化粧をするようになった。
キレイになる母を見るのはうれしかったが、同時に母の迎えが段々遅くなってきた。

母のお迎えが園の最後になることも当たり前になってきた。
その内保母さん達が、
「まだ迎えにこないの!こっちだって早く帰りたいのに!」
などと私の前でもお構いなしに話すのを、何度も聞くようになった。

それでも私は、母が迎えに来ると喜んで駆け出していた。

そんなある日、母が男の人と一緒に私の迎えにやってきた。
男の人は、ケーキの箱を持っていた。

母は、「新しいお父さんよ」と、私に向かってそう言うと、
のぞき込むように私の顔色を窺った。

私は無理して笑顔を作った。

しばらくして、私たちは「新しいお父さん」の家へ引っ越した。

「新しいお父さん」は文句なくいい人だ。とても優しく包容力もある。
悪さをすれば容赦なくしかる。
本当の父のようだ。それに母の事をとても愛しているのが子供の目からも
よく分った。

「新しいお父さん」を嫌いなわけじゃない。ただ、「パパ」を忘れたくなかったのだ。
だから、「新しいお父さん」に意味もなく反発した。困らせもした。
そんな素直じゃない自分が段々嫌になってきた。安っぽい自分に気がついたからかもしれない。

「家を出よう」

その時はじめてそう思った。

そのためにバイトをして貯金もはじめた。
高校の3年間はバイトをしまくった。

高校の卒業と同時に家を出ることにした。
もちろん、「新しい父」は反対したが、私は頑として譲らなかった。

母は何も言わなかったが、私が家を出る日の朝、
「健康祈願」のお守りと私名義の貯金通帳を持たせてくれた。
少しずつ貯めてくれていたという事だった。

東京へ出て、すぐにコンビニで働いた。バイトの経験があったからだ。
その後、仕事を転々として今の会社の事務として安定した仕事を得た。

何とか家賃5万のアパートなら生活出来るまでになった。
貯金も少しは出来た。

こっちに来て3年半経つが友達はいない。
職場でも口数が多い方でないので、周りになじめずにいた。誘われてもいつも断ってばかりいた。
自然と誰も誘わなくなった。もしかしたら嫌われているのかもしれない。

でも、私は今の「お一人様」の生活に満足している。というか慣れてしまった。

私は映画と、絵画の鑑賞が好きだ。一人でも楽しめるからだ。
年に何回かは美術館や映画館に足を運ぶ。

そんな美術館の帰りにマサを拾ったのだ。

「上野の森美術館」を夕方5時ころ出た。
12月半ば過ぎの5時はだいぶ暗くなっていた。それに何よりも寒かった。

公園の中を足早に歩いていると、暗くなったベンチに背中を丸めて寒そうに
震えながら座っている彼を見かけたのだ。

「寒そう」、それが第一印象だった。

それはそうだろう。もうじきクリスマスになろうというこの時期に、
彼はグレーのパーカーにジーンズという軽装で、コートすら着ていない。
震えて当然だと思った。
その彼の前を足早に通り過ぎようと横切った時だった。

「さ、寒い!」

と震える小さな声が耳に飛び込んできた。
辺りに人影は少なかった。明らかに彼以外の声ではない。
私はちょっと彼の事が気になった。不思議と怖さはなかった。

「どうかされましたか?」

私はおそるおそる声をかけてみた。
彼は、初めて私に気がついたのか「ビクッ」としてカオを上げて私を見た。

「住むところがないんです」

と、弱々しい声がかえってきた。

「エッ、もしかしてホームレス?」 咄嗟にそう思った。
「早くここから立ち去らなきゃ」と思った瞬間、

「お願いがあります」

今度はハッキリとした声で、じっと私を見つめながら彼が言った。
街灯の電球が切れかかった暗がりだったが、彼のカオがはっきり見えた。

彼は微笑んでいた。

「なんでしょう?」

と私は聞いてしまっていた。

「二週間だけ泊めて下さい。お願いします」

そう言うと、ぺこりと私に頭を下げてきた。

私は人から頭を下げられたのは初めてだった。
だからと言って見ず知らずの男を泊めるわけにはいかない。

「ごめんなさい」

そう言うと私はペコリと頭を下げて、足早にその場を立ち去った。

しかし、私は彼の事がひどく気になっていた。

公園内で売っている「ホットドッグ」と「ホットココア」を買って
彼の所に戻ってみた。

すると、彼の前に若い警官と年配の警官が二人立って彼と何か話していた。

少し離れていたところで私はその様子を窺うことにした。

年配の警官が

「君はここで何をしているの?」

「・・・・」

「君の住所は?」

「・・・・」

「君、年はいくつかな?」

「48です・・・」

すると、若い警官が

「ふざけるな!!警官をからかうんじゃない!」
「どう見たって20代なかばだろう!」

と大きな声を上げて脅かした。

「まあまあ!そう怒りなさんな。彼もびっくりしているじゃないか」
と年配の警官がたしなめると

「しかし、困ったなあ」
「本当の事を話してくれないと、君をこのまま帰すわけにはいかなくなるんだよなあ」

それを聞いた彼の体が 「ガクガク」 と怯えたように震え始めた。

警官もそれに気づき、こいつ、怪しいと直感したようだ。

「とりあえず、話の続きは署の方で聞こうか」

そう言うと二人の警官は、左右から彼の腕を掴み、なかば引きずるように歩き出した。

そんな時、彼の目線と私の目線がぶつかった。
彼の眼はひどく怯えているようだった。

その眼は私に「助けて!」と訴えかけていた。

気がつくと私は

「待って下さい」

と二人の警官に向かって声を張り上げてしまっていた。

「しまった!」 と思ったが、もう遅い。

私は、「彼の事が気になっている」という自分の「直感」を信じる事にした。

「お兄ちゃん!何してんのよ。も~!」

「お巡りさん。すみません~」
「兄は人見知りが激しくて・・・」

一世一代の大芝居だ。

「ご家族の方ですか?」と年配の警官が聞いてきたので

「そうなんですぅ」
「兄は人見知りがすごくて、だからぁ今日は久しぶりの外出だったんですぅ」

思いっきり甘えた声で二人の警官に愛想を振りまいた。
特に若い警官に向かって

「兄は、困ったことがあると誰にでもすぐバレるような冗談を言って、ごまかそうとする癖があるんですぅ」
「悪気は全然ないんですぅ。ほんと~にすみません~」

そう言って、下から上目使いに、申し訳ないような顔をして見せた。

若い警官は、年配の警官と目を合わせ、軽く頷くと、

「あっ、まあ何かした訳でもないし・・・、ちょっとした職質しただけだから」

そう言うと苦笑いをし、

「年末で物騒だから、気を付けて帰ってくださいね」

とねぎらってくれた。

私は、ペコペコ頭を下げながら、彼の手をとって急いでその場から立ち去った。

いつの間にか人だかりができていた。

人がまばらな所まで彼を引っ張って行った後、思いっきり息を吐いた。

「ふ~!」

「アンタ!一体何なのよ!」

思わず自分でもびっくりするほどの声を出してしまっていた。

すると、

「あははは」

「なによ!」

「あははは~!」

「人、バカにしてんの」

「あははは!あはあはあはははは~!!」

お腹を抱えて笑い出した。

「何がおかしいのよ!」


まだ、お腹を抱えて笑いながら
「君、最高の演技だったぜ!」

「誰のせいでやったと思ってんのよ!」

いつの間にか大きな声で怒鳴り散らかしていた。
自分でもびっくりした。自分にこんな感情があったなんて・・・

しかし、怒鳴ったせいで、さっきまでの緊張が一気にほどけた。
すると、なぜか急に可笑しさがこみ上げてきた。

「ふふふ」
「あははは~」

「ふふふふふ~!」
「あっはっはっは~!」


「ふっふっふっ~!」
「アッハッハッハッハ~」


「フッフフフフフフ~!」
「ハハハハハ~!」


お互いひとしきり笑った。

そばを通り過ぎる人達が、いぶかるような顔をして、少し離れて通り過ぎて行く。

それを見ると、また可笑しくなって二人で笑い出した。
「ヒ~ヒッヒッヒヒ~!」
「ウフ!ウフフフフフ!」


思いっきり笑ったせいか、体も心もポカポカしてきた。
彼も暖かそうだった。

こんなに笑ったのはいつ以来だろう・・・

ウキウキしている自分に気がついた。

買ってきた「ホットドック」を半分にちぎって彼に差し出した。

彼はそれを見て

「くれるの?」

私はそっと頷いた。

そうして彼は私のアパートの居候になった。


私は、男性をむやみに泊めるような分別のない女じゃない。

条件をつけた。

期限は二週間だけ。必要以上に外に出て変な噂が出ないようにする事。
もっとも大事なのは、絶対に私に触れない事。
この条件を破ったらすぐに出て行ってもらう。

この条件でマサは居候になった。
もちろん、マサを信じていたからである。
マサは約束をちゃんと守ってくれている。

マサ用の部屋は納戸にした。東京で家賃5万のアパートでは他に部屋などない。
一畳の狭い物置だが、寝るだけなら問題ない広さだ。マサも納得している。

家に異性がいるという事で、私もだらしない格好は出来なくなった。
女性の身だしなみとしてはいい事だと自分を納得させている。

なぜ、二週間だけなのか?家族は?この後どうする気なのか?
訊きたいことは山ほどあるが、お互いの事は詮索しないことにしてある。

私も家族の事や生い立ちなど話したくない。

仕事から帰ってくると、「部屋に明かり」が点いていて、「晩御飯が準備されている」

一人の食事が二人になり、仕事の愚痴も聴いて貰える。

うれしかった。



そう、あれからもう一週間たったのだ。残りあと一週間。

今夜はクリスマスイブだ。
味噌汁を飲みながら私はマサに提案した。

「今日はイブだから、映画でも観に行って、帰りに美味しいもの食べてお祝いしない?」
「早く帰るようにするからさ?」

するとマサは、困ったように

「ちょっと言いそびれて・・・、でも、今言おうと思ってたんだけど・・・」
「ゴメン、今日と明日は人と会うんだ」
「だから、今日帰ってきてもご飯の支度は出来てないよ」
「ホントにゴメン」

「ううん、わかった」
「別にいいの」
「いつもの事だから」

そう言って私は無理して笑顔をつくった。
二回目だった。

仕事から帰ってみると、もしかしたら、と淡い期待をしたが、本当に彼はいなかった。

しかし、クリスマス用の料理がテーブルの上に準備されていた。
鳥のもも肉のロースト、ポテトフライ、赤ワイン、

手紙が添えてあった。

メリークリスマス!
仕事お疲れ様。今日も頑張った君に特別ディナーの準備しちゃいました~。

手を洗って、うがいをして、ちゃんと温めて食べるんだよ。

冷蔵庫にはデザートのイチゴと、モンブランもあるからね。
だけど、全部食べるとおデブになること間違いなし!!

戸締りは忘れずに!!

マサは明後日の夕方帰りま~す。


「何がデブるだ」
余計な事を!

涙が出ていた。うれし涙だ。

その日は8日ぶりの一人での食事になったが、寂しくなかった。

翌朝起きると、朝ごはんの味噌汁が出来ていた。

私は、「マサいるの!」と大きな声をだして、風呂場と、トイレをのぞいた。
納戸も覗いたが当然のようにマサの姿はなかった。

しかし、おかげで元気に仕事に行けた。


今日はうれしい事があった。

営業の「k」が私に告白してきたのだ。

「昨日のイブに誘いたかったんだけど。他と約束があったから」
「だから、今日良かったら夕飯一緒に食べに行けないかな?」

私はビックリしてしまった。
はじめての事だった。

「ごめんなさい!」

恥かしさと戸惑いから、思わずそう言って、その場から逃げだしていた。

彼は女子から人気がある。
私から見ても「カッコいい」と思う。
仕事も出来るし、マスクもイケてる。何より優しい。

外の自販機で、お金を落として困っていたお爺ちゃんと、一緒になってお金を探している「k」を偶然見かけた事があった。
しかし、なかなかお金が見つからず、それを見かねた他の二人も一緒になって探す羽目になったことがあった。彼の人柄が周りをそうさせていたんだと思う。

彼の周りには自然と人が集まっていた。

そんな彼から食事に誘われたのだ。
「うれしいに決まっている」

しかし、なにか違う気がする。

帰り間際、「k」から声をかけられた。

「さっきは脅かしたみたいで悪かったね」

「・・・・」

「だけど僕の気持ちは一緒だよ」
「今日が無理なら都合のいい日を教えてくれないかな」

「・・・・」

「僕の事、嫌いかい?」

「・・・・」

「そうだよね、急にこんなこと言われたら誰だって警戒するよね」
「だけど、何も言わなくていいから、話だけでもきいてくれないかな?」

私は頷いた。

彼の真剣さは伝わってくる。
だから、彼に対してそのくらいの誠意は示したいと思った。

「よかった~!」

「k」は急に笑顔になった。

「実は、最近までの君は、そのう・・・」
「なんていうか、とても近寄り難いオーラが出ていたんだ」
「ごめん、誤解しないでね」

彼は、申し訳なさそうに人差し指で頭をかいた。

「だけど、ここ4~5日の君は、なんていうか・・・」
「うまく言えないけど、スッゴクいいんだ・・・」
「可愛いらしくなった」「愛おしくなったんだ」

「バカらしいと思うかもしれないけど、君は、僕にとって大事な人なんだ」

「だから、よかったらお付き合いして下さい」

私の目をまっすぐに見て「k」がそう言った。

「返事は何時でもいいけど、ダメなら早く言ってね」

と「k」は、またアタマを掻いた。

よく見ると、額に汗がびっしょりなのがわかった。

「真剣だとわかる」

「だけど、返事が仮にノーだとしても簡単に諦めないけどね」
そう言って「k」はハニカミながら笑って

「お疲れ様、また明日ね!」

そう言って手を振って私を送り出してくれていた。


「ぼーっ」とした気持ちで電車に乗っていた。

家へ帰るとやはり明かりは点いていなかったが、昨日と同様夕飯の支度がされていた。

手紙には、

本当は今日がメリークリスマスなんだよね!
だから改めて、
メリークリスマース!

今日は、マサ特製のステーキです。

どうだぁ! すて~きだろ~

冷めないうちに早く手を洗って食べてね

マサより


何がすて~きだろ~よ!
オヤジギャグ丸出しじゃないの!
と毒づきながら「フフ・・」と苦笑いをしてしまった。

次の瞬間、「エッ、冷めないうちに・・・??」
ラップの上からステーキの表面を触ってみる。

「温かーい」 「もしかして今作ったばっかなの?」
そう思い、周りをキョロキョロしたがマサがいる気配はなかった。

「話たい事があるのに・・・」
「肝心な時にいないんだから・・」

そう、心の中で文句を言ってみた。

夕べの「赤ワイン」でステーキを食べた。
「柔らかーい!」

マサは食事ちゃんと食べてるのかな?そう思っている自分がいた。


次の日の朝、お味噌汁はなかった。

マサの事は心配だったがどうしようもない。

「今日、マサが帰ってきたら根掘り葉掘り訊いてやるんだから!」

そう思いながら、今朝は朝ごはんを抜いて仕事に出かけた。

仕事中、「k」の顏をまともに見る事が出来なかった。
だけど、気がつくと彼の姿を探している自分がいた。

「k」は、視線が私と会うと「ニコッ」と可愛い笑顔を返してくれたが、
私は、下を向いてしまう。そのくせ、また彼の姿を探していた。

終業のベルと同時に私は会社を出た。

「マサが帰って来ている」

そう思うと駅まで小走りになっていた。

家の前まで来て「窓」を見る。

そこには「灯り」が灯っていた。

うれしくて、大きな声で

「ただいま~!」

と言って玄関を開けて中へ入った。

「おかえり」

そう言ってマサがいつものように優しく迎えてくれた。

私は、マサの胸の中に飛び込んでいた。

マサは優しく受けとめてくれた。

「心配かけてゴメンね」

マサはそう言って私の頭を撫でてくれた。

マサは私の目の高さに腰をかがめ、

「触っちゃたね。出て行かないといけないね」

そう言って、イタズラっぽくウィンクをしてみせた。

「マサのバカー!」

思わず怒鳴ってしまった。

「ゴメン、ゴメン」マサは笑って謝った。

「夕飯の準備が出来てるよ。早く手を洗って、うがいしておいで」
そう言って私の背中を押した。

話すことが山とあった。

開口一番
「今までどこに行ってたの?」

食事を終え、ココアを飲みながらマサに訊いてみた。

マサはコーヒーを飲みながら、

「う~ん、話すと長くなるから、後でね」
「それより、クリスマスはいい事あったみたいだね?」

「どうして分かるの?」

「そりゃ~付き合いが長いからね」
そう言って、マサは笑っていみせた。

「実は、職場のkさんにお付き合いしたいって言われたんだ」

「で、どうなの?」

「どうなのって言われても・・・」
「マサはこれを聞いても何とも思わないの?」
「私は、マサが好きなのよ」

これにはマサは、ビックリした様子だった。

「もう夜遅いから寝ようか」
「明日は休みだから続きは明日にしようよ」

マサはそう言って自分の部屋に引き上げて行った。

私は一人取り残されてしまった。

一世一代の大告白だったのに

涙が出ていた。

その夜はなかなか寝付けずにいたが、いつの間にかトロトロとして
浅い眠りにつくことが出来た。

そこに、襖が「スーッ」と開く気配があった。

私は眠ったフリをして身構えた。

「ガサッ」

何かが私の枕元に置かれた音が聞こえた。

しばらくして、優しい手が私の髪を撫でてきた。

やさ~しく、やさ~しく

私は、安心して夢の中へ入って行った。

私は夢を見た。

父の膝の上で、いつものように絵本を読んでもらっている。

「ネエネエ、パパ、パパ」

「なんだい?」

「クリスマスのプレゼントは、プーさんが欲しい」

「そうだね、パパも欲しいな」
「じゃあ一緒にお願いしてくれる?」
「モチロンだよ」

私はパパの顏をのぞき込んだ。

あっ!マサ!

目が覚めた

枕元には大きな包みがあった。

私は、その包みを大事なもののようにゆっくりと開いてみた。

中からは、あの「クマのプーさん」が出て来た。

「なんで!」

私は泣いていた。

すぐにキッチンへ行ってみた。

誰もいなかった。

マサの物置を開けた。

やはり誰もいない。

「パパー!」「パパー!」

大きな声を上げて呼んだ。

しかし、返事はなかった。

「まだ約束の二週間経ってないのに」

私は大粒の涙をこぼしていた。

テーブルの上に味噌汁と「手紙」が置いてあった。


ユウちゃんへ

ずいぶん遅くなったけどクリスマスのプレゼント
気に入ってもらえたかな?

ずいぶん大人になっていたんでビックリしたよ。
まるで付き合い始めた頃の、「ママ」を見ているようだった。

どうしてパパが急に現れたか、不思議に思うだろうね。

その前に、サンタさんは本当にいると今でも信じているかな?
人は大人になると、サンタさんは架空の人なんだと気がついて
しまうもんだよね。

だけど、本当はサンタさんはいるんだよ。

もちろん、子供たちにおもちゃのプレゼントをする訳じゃないけどね。
もっと素敵なものをみんなに、大人にも、子供にも、公平に届けているんだよ。

みんな大人になると、それを感じ取れなくなってしまうんだね。
パパもそうだったよ。だけど、気がつく人はいるんだよ。
ユウちゃんもそれに気がつく大人になって欲しいな。
ただ、感じるだけでいいんだよ。そうすると心の中で何かが変わるんだ。

パパは、サンタさんのお手伝いをするという約束で二週間だけ
ここに居られる事になったんだ。一回だけだけどね。

だから、パパと同じような人はクリスマスには、いっぱいいるよ。

そのためには、二つだけ決まりがあってね。

正体がバレてはいけない。
ウソをついちゃいけない。

まあ、ウソについては都合が悪いときは、黙っていればいいんだけどね。
だけど、つい、お巡りさんに「48です」なんてホントの事言っちゃって
あの時は危なかったね。

こうやってユウちゃんに「正体を明かす手紙」を残すのも、いけないんだけどね。

だけど、ちょっとだけなら大目に見てもらえるんだ。

どうしてかって?

それは、ヒミツだよ。

会社の「k」さんの事だけど、君が選んだ人なら間違いないよ。
君の事を気に入るなんて、そいつ、「見る目」があるじゃないか。
パパはとてもうれしいよ。

君をここまで立派に育ててくれたママと、パパの代わりに育ててくれた方
感謝してるよ。

パパは、その人の顏も名前も知らないけど、ユウをここまで立派に育ててくれたんだから
ユウを見ればその人の人柄はよくわかるよ。

もちろん、ユウが頑張ったからこそ今があるんだよ。

それじゃ、そろそろ行かないと。



一気に読み終えた

すると、手紙が徐々に薄くなっていき数秒後には手から消えていた。

「パパァー!」

私は顏を両手を覆って泣いてしまった。

ひとしきり泣いた後、パパが作ってくれた「味噌汁」を飲んだ。
不思議な事に、全く冷めていなかった。

飲み終わると私の気持ちの何かが変わった。

とても穏やかな、すがすがしい気分になったのだ。

パパと過ごした、パパに大事にされた、あの10日間で私は変わった。

私は、3年半ぶりに実家に電話をした。

「新しい父」が出た。

私は、初めて「お父さん」と呼んだ。

「今度のお正月に帰るから」と連絡した。

「ママ!、ママ!ユウが、お父さんだって今度帰って来るって!

と電話の向こうでお父さんが嬉しそうにママに話しているのが聞こえた。

今まで、言いたかったけど言えなかったことが、やっと少しだけど、言えた

「帰ったら、ちゃんとお礼を言おう、それに謝らなくちゃ」

何をお土産に持って行くか考えている自分がうれしくなった!

「ありがとう、パパ」


不思議なやり直し

あなたの初恋はいつでしたか?

もう、遠い過去の事でしょうか?
ついこの間の事かもしれませんね。

その初恋は成就したでしょうか?

振り返るのも少し恥かしいけど、ちょっと思い出して、「フフフ」と思う事もあると思います。

もし、今、その時に戻れたらもっと違う行動がとれたという方もいると思います。

今回は、そんな方とご一緒にこの物語を進めたらと思います。

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くっそ~!なんでこんなことに!
無理したかな~?

いい雰囲気だと思ったんだけど・・・・・・・
チキショ~!なんでそんなにあせっちゃんだろう?

明日はイヴだというのに




オレ、マサ。彼女の名前はキヨ。

夕べ、恵比寿ガーデンプレイスで彼女と、肩を寄せ合ってクリスマスのイルミネーションを眺めていた。
フッと彼女のほうを向くと、寒さで紅潮した顏にイルミネーションの色とりどりの照明で照らされた彼女がいた。
それはとても可愛く、つい見とれているとそれに気づいた彼女が、

「何?、恥かしいじゃない!」

と言って、ほっぺたをリスのように膨らませると、抗議をするように「グー」の拳固でオレの胸を軽くたたいてきた。

そのしぐさがあまりにも可愛かったから、周りにアベックや家族連れがいるにもかかわらず、つい彼女を抱きしめちゃったんだ。
彼女もオレの胸に紅潮した顏をうずめるように抱きついてきた。

そこまでは良かったんだ!そこまでは。
問題はその後・・・・・



出会いは、大学の研究室。研究テーマは「経済活動における社会心理学」

キヨは、研究室に来た初日、真っ赤な顔をして研究室のみんなに

「はじめまして、経済と市民の行動心理についてとても興味があります」

「でも、本当は素敵な彼との恋愛に興味があります」

こう言って研究室の度肝を抜く挨拶をした。

スタッフのみんなは苦笑いを浮かべたが、オレは開けっ広げな彼女に好感を持った。
というよりひとめ惚れをしてしまったようだ。

その日以降、研究室に行くのが楽しみになってきた。

教授1人、講師1人、オレとキヨを入れた学生が5人とこじんまりとした研究室で、みんな気ままに研究をしていた。
教授の名前は黒田算数。教授のお父さんが算数の先生だったのでその名がついたとか。
講師の名前は、中居戸。いつもハナの頭が赤いので一説によるとアル中という噂もある。
どちらも滅多に研究室に顏を出さない。

そんな研究室の歴代先輩たちは、大学の図書室にある「経済行動心理学」という全5巻からなる教授が出版したやけに分厚い本の丸写しで論文を書き卒業して行く。

来年には6巻目が出版されるらしいから、それでオレは論文が書けそうだ。

こんな研究室だが、大手銀行融資部門や、証券会社投資相談室だったりと、結構それなりの責任がある部署に先輩たちが就職しているというから驚きだ。

日本の経済が停滞気味なのも分かる気がする。

そんな会社でバリバリ?に働いている先輩たちも息抜きなのか、オレみたいな下っ端にいろいろとチョッカイをやきに研究室にやってくる。

今日だって研究室に誰もいないことをいい事に、いつも通りの息抜きの先輩が

「おい、マサは彼女がいないのか?」

と、「ドキッ」とする事を聞いてくる。

「おやおや~?マサ君」
「もしかしてその反応、カ・タ・オ・モ・イかな~?」

「先輩、何を今更~!」
「先輩だっていないくせに!」


「へへ~!それがな・・・」

「まさか?先輩!」

「ジャ~ン!これが彼女!」

そう言って、スマホの写真を自慢げに見せてきた。

そこには、長めのストレートな黒髪の優しそうな顔をしたお姉さんが笑っていた。

なんでも、融資周りをしていた時の会社の受付嬢らしい。

先輩は、男のオレから見て決してモテるタイプの容姿じゃない。
若いくせにお腹が中年みたく出ているし、背だって小柄だし顔も人並みだと思う。
おでこも広い。

そんな先輩に優しそうな彼女が出来た事はうれしいけど・・・・
正直、ちょっとショックだった・・・・

「自慢話をしに来たならもう帰ってくださいよ!」

「ワリ~ワリ~!」

嬉しそうに手を上げて謝るようなしぐさをする。

きっと、こんな愛嬌のあるところが魅力なのかもしれないと思っていると

部屋の外で

「キャッ」 という音と共に
バサバサッバサ~

と何かが落ちる音がした。

あわててドアを開けると、そこには散乱した書類の束や、資料本を拾い集めるキヨがいた。

研究室のドアノブに手を伸ばした時に滑って落としたようだ。

オレは手伝おうとしたが、先輩の目が気になって何もせずにいると

「マサ!」

と言って、先輩が手伝えとという顔をしていた。

オレは直ぐに廊下に散乱した資料を拾い集め、彼女と一緒に研究室の彼女の机の上に置いた。

その間、彼女が

「ありがとう」

とひとこと言ったきり誰も何も話さなかった。

しばしの沈黙の後

「さあてと、お邪魔虫のボクは退散とするかな~!」

と先輩がおちゃらけて言って出て行く後ろ姿に向かって。

「センパ~イ!」
「変な事言わないで下さいよ~」

「わかってるって」

そう言うと振り向きもせず手を上げて出て行ってしまった。

それを見ていたキヨが

「スッゴ~イ、でもカッコつけすぎですよね?」

そう言って笑い出した。

それを見て、オレもつられて笑い出していた。

何かのきっかけで、急に人と人が仲良くなることがあると知っていたが、それが自分に訪れるとは思っていなかった。

「先輩、さっき言ってた変な事ってなんですか?」

先輩っていうのはオレの事だ。彼女の1つ上である。

「え、ああ!」
「それは、その」
「あっ、そうだよ、先輩がお邪魔虫っていうから、そんな事ないですって意味だよ」

「なあんだ」
「チョット期待してたのに」


そういうと、キヨはちょっとホッペタを膨らませていた。

え~?これってどういう事?
頭の思考回路がショートするかと思うくらい今の状況を分析し始めた。

「先輩、私は先輩と二人っきりになれて良かったと思ってますよ」

真っ直ぐオレの目を見つめてキヨが言ってきた。

オレの頭の思考回路は、ひとつの解答だけを残してショートしてしまった。

心臓がキヨに聞こえるんじゃないかというくらいドキドキしている

オレは正直になる決心をした。

「今、この状況で言うのはズルいと思うけど・・・・・」
「今じゃないと言えそうもないから、今言う」

「キヨちゃんがこの研究室に入って来たときから、オレ、キヨちゃんの事が気になっていたんだ」

「だから、オレも正直、二人になれて良かったと思っている」

「本当ですか!先輩!」
「じゃあ、じゃあ、今日ハンバーガーおごってくれます?」


「・・・・・・」

それから、オレとキヨは付き合う事になった。

2週間前の事だ。


付き合い始めてまだロクにデートもしてないけど、初めてのクリスマス・イヴを明後日迎える。
周りはどこもかしこもクリスマスモードだ。

イエスキリストの誕生日とされているが、実際はどうも違う日らしい。

じゃあ、何のイベントなんだ?

と思ってもしょうがない。水を差していまさら何になる。

そう思いつつ今までクリスマスを何度もやりすごしてきた。

だが、今年は違う!


例の先輩は今日また、研究室に来てオレをからかって息抜きをしている。

「先輩のおかげで、キヨと付き合う事になりましたよ~」

「だろ~!マサ、よかったな」
「もっと感謝しろよ」

「ハイハイ、感謝してますよ~」

「もうじきクリスマス!ビシッと決めろよマサ」

口では軽口をたたいているが、オレはこう言ってプレッシャーをかける先輩に感謝している。

「それでだ、これ、彼女と行こうと思っていた映画だけど、彼女が行きたがらないからマサにやる」

そういって、2枚のチケットをヒラヒラさせて渡してくれた。

「寄生獣」そう書いてあった。

実際、彼女に会った事はないが、写真のイメージ通りの人だとすれば、行きたがらないのは納得できる。

そんな先輩だが、来年、彼女と結婚が決まったと喜んでオレに話してくれた。


映画の事をキヨに話してみると

「行きた~い!」

と言って喜んでくれた。

どうやら、染谷将太さんのファンらしい。

人間を食べるというかなりグロイ映画だと聞いていたが、その映画のおかげで、彼女との中がさらに深まった。

というのは、戦闘シーンで、彼女がギュっとオレの手を握りしめてきたからである。

寄生獣を見た後でも腹は空く。キヨはお腹をさすって腹ペコアピールをした。

キヨは、オレのふところ具合を心配して恵比寿のラーメン屋さんでみそラーメンとギョーザを食べた。

時計を見るとまだ7時半だ。このまま帰るのはもったいないので、ガーデンプレイスのイルミネーションを見に行くことにした。

クリスマス期間中は、ガーデンプレイス内全体がイルミネーションで満たされている。
ムード満点。デートにはもってこいの場所だ。

予想通り周りはアベックだらけだったが、イルミネーションされたクリスマスツリーや巨大シャンデリアの美しさに圧倒され、周りの事など全く気にならず自分たちの世界に浸ることが出来た。

キヨも「キレ~、ステキ~」を連発。

二人してイルミネーションを楽しんでいたが、彼女の喜ぶ表情をもっと見たくなりついついじっと見てしまった。

それに気づいた彼女が、

「何?、恥かしいじゃない!」

と言って、ほっぺたをリスのように膨らませると、抗議をするように「グー」の拳固でオレの胸を軽くたたいてきた。

そのしぐさがあまりにも可愛かったから、周りにアベックや家族連れがいるにもかかわらず、つい彼女を抱きしめた。
彼女もオレの胸に紅潮した顏をうずめるように抱きついてきた。

そして、彼女にキスをしようと彼女のあごを持ち上げ口を近づけると

「イヤ!やめて」とオレの胸を押しのけたんだ。

「どうしたんだ?」

「・・・・・・」

「黙ってちゃわからないよ」

「・・・・」

何も言わずにさっさと駅に向かって歩き出して行ったんだ。

もう何が何だかわからず、オレもパニクッてしまい、後を追いかけてとりあえず謝ることにした。

「ごめんよ、キヨちゃんがとってもかわいかったからつい」
「謝るよ。もうしないから」

すると、急に立ち止まって

「何で謝るの!」

「もう少し私も気持ちをわかってよ!」

そういって、駅の改札をかけて通り抜けてしまった。

オレもすぐに追いかけたが間が悪いことにスイカのチャージが切れていて中に入れなかった。

「一体何なんだよ!」

それから、何度謝りのメールしても返信が来ない。

翌朝、もしかしてと思っていたが研究室にも彼女は来ていない。どうやら大学を休んだようだ。

相変わらず、メールに返信がない。

何回目かのメールにやっと返信が来た。

「やっぱり先輩は私の事わかってくれない・・・・私たち、別れましょ」

一言そう書いてあるだっけだった。

オレは、何十回目かの昨日の事を思い出していた。

やっぱりキスをしようとした事に起こっているに違いない。

どうすればいいんだ?

そこに能天気な先輩がやてきた。

「どうだった、寄生獣」
「おもしろかったろ~!」

「センパ~イ!」
おれは、一部始終を先輩に話した。

先輩も首を傾げて彼女の行動の意味が解らないようだった。

「マサ、もうちょっと話の前後を聞かせてくれないか」

「映画館での様子はどうだった?」

「彼女から手を握ってくる位でしたから、まあ、よかったと思います」

「で、その後ガーデンプレイスに行ったんだよな?」

「はい、だけどおなかが空いたのでラーメンと餃子を食べました」

「その時の彼女の様子は?」

「おいし~と言って餃子をもう一皿注文したから、まあよか

言い終らないうちに先輩が急に

「それだ!」

「なんですか?」

「何ですかじゃないよ!バカかマサは?」

「・・・・・」

「いいかい、ラーメンと餃子を食べたお口はどうですか?」

「・・・・・」

「当然くさいよな?」
「そんな口で、女の子がキスしたいと思うかい?」

「そうか!それで彼女は・・・」

「その後のマサの態度もいけないぜ」
「理由をわかろうとせず、ただ取り繕うと謝ってばかり」
「おまけに、しまいに怒って」
「結局、彼女の目には、自分勝手な奴に見えてしまったんじゃないのかな」

「じゃ、先輩どうすればいいんですか?」

「もう無理だな、諦めろ」
「残念だが、女性は切り替えが早いからな」

「そんなあ・・・」

しかし、先輩は笑って1錠のカプセルを差し出した。

「なんですか、これ?」

「いいか、しっかり聞け」
「今日、これから昨日彼女と観てきた映画館の前に行き、昨日彼女と出てきた時間きっかりにこのカプセルを飲むんだ」

「きっかりと言っても、正確な時間までは・・・」

「上映時間を調べればおおよそわかるだろ。前後15分位は大丈夫だ」

「その後どうすれば」

「飲めばわかる」
「ああ、あとガーデンプレイス内にスタバもあるからそこでお茶してこい」

「・・・・・」

「良いから早く行け、間に合わなくなるぞ!」

何が何だかわからないまま映画館の前までやってきた。

「えっと、確か6時半くらいに劇場を出てラーメン屋さんに行ったんだよな」

そう思って時計を見ると6時40分になっている。

「やっば、遅いか」

そう思いつつも、先輩からもらったカプセルを口に含む

「ウオエ~!、にがい」そう思って吐き出そうとすると、急に目の前の電柱が「ギュニュ~」と曲がり始めた。
よく見ると電柱だけじゃないお店もビルも自分の体も歪んでいる。音も喧噪も聞こえてこない。

頭がくらくらして、地面に膝と両手をついた。

しばらくしていると急に喧騒が耳に飛び込んできた。

「どうしたんですか先輩!」
「映画、そんなに怖かったんですか?意外と怖がりなんですね」


見上げると、そこにキヨの笑顔があった。

「エッ、どうしたの、もう怒ってないの?」

「何怒るんですか?変な先輩」
「それより、お腹減りましたね」

そう言うとキヨはお腹をさすってみせた。

昨日と一緒だ!
もしかして、もう一度やり直せるチャンス?


キヨがラーメン食べたいと言い出した。

「キヨちゃん、ラーメンよりお茶にしない」

そう言って、ガーデンプレイスに向かって歩き出した。



翌日研究室に行くと先輩がまっていた。

「うまく行ったようだな」

「ハイ先輩!」

「あのカプセルは一体・・・・」

「絶対内緒だぞ。あれは、24時間だけ戻れるカプセルなんだ」

「どうやって、手に入れたんですか?」

「聞きたいかあ~?」

先輩はいたずらっ子のように笑って教えてくれた。

あのカプセルは、黒須教授がくれたそうである。
黒須教授は、自分の研究室に「あまりにも頼りない子」がいると、その学生が卒業する時にプレゼントするそうである。

先輩も学生時代は「あまりにも頼りなかった」らしい。

教授がこれをくれる時
「人生やり直せたらと思う事が必ずある。特に君なんかはね」
「その時にこのカプセルを飲むといい。後は君次第さ」
こう言ってこのカプセルをくれたという事である。

教授の話では、カプセルをあげたのは先輩で3人目らしい。

先輩はこれまで5回カプセルのお世話になっているということである。
そのうち3回は、今の彼女にである。どうやら、3回は振られたようだ。

後の2回は仕事の失敗みたいだ。

最初は全部で11カプセルあったらしいが、オレに一つくれたため残りは5カプセルだ。

先輩に礼を言うと

「いや~、マサを見ているときっとマサにもカプセルをあげる気がするんだよね~」
「そしたら、返してくれればいいから」

そう言って笑っていた。

おれも、「あまりにも頼りないやつ」なのか?・・・・

先輩に黒須教授がなんでそんなカプセルを持っているのか聞いてみたが、先輩もよく分らないらしい。

だけど、憶測としてこう言っていた。

「教授は実はサンタクロースなんじゃないかと思うんだ」

「何言ってんですか先輩!」
「やっぱ頭おかしいですよ」


「い~や、よく名前を考えてみろよ」

「教授の名前は黒田算数」、「いつもハナの頭が赤い講師の名前は、中居戸」
「カタカナに直すと」

「クロダサンスウ」と「ナカイト」
並び替えると
「サンダクロスウ、サンタクロース」と「トナカイ

「滅多に研究室に来ないのもなんとなぐ合点がいく」

「まっ想像だけどな」
「だけどオレにとっては、まぎれもないサンタクロースさ」

そう言って笑ていた。

それから2年後、オレは、教授の「経済行動心理学」第6巻の丸写しで卒業できることになった。
オレもやはり黒須教授から「カプセル」11錠もらうことになった。
その時、思い切って教授にサンタの事を聞いてみた。

すると、教授はあっさりと、「バレたものはしょうがない。だが、これは極秘にな」
「そうしないと夢がなくなるからな」
そう言って笑っていた。

確かに知らない方が良かったと思って後悔した。

就職先は先輩と同じ銀行の融資課に決まった。先輩は来年支店長になるらしい。

カプセルを2個使ったようである。もちろん1錠は先輩に返したから先輩は残り4錠あるはずだ。

キヨとは、その後も付き合いを続けている。

キヨはカプセルの事は知らないし、もらう事もないだろう。

あともう一つ疑問が残っている。あのカプセルを飲んだ次の日、「先輩は飲んだことを知っていた」という事だ。

大げさに言えば歴史が変わったんだから、先輩は「以前の出来事を知らないはずではないのか?」
それを言うと先輩は

「オレもそれは不思議なんだよな」
「これ、想像だけど、たぶん飲んだのがオレのカプセルだからなのかな」
「だから、オレにも作用が及んだって事かもな」

「まっどっちにしても、わかんないこと考えてもしょうがないからさ!」

そういって、笑っていた。

そうだな、あのカプセルのおかげでオレは救われたんだ。細かいこと気にしたってしょうがないさ。

あれから、毎回クリスマスには恵比寿ガーデンプレイスに行ってスタバでエスプレッソを飲み、イルミネーションを眺めながら、愛を深め合っている。

キヨ、ありがとう。これからも仲良くしような。













Appendix

プロフィール

ガボテンマサ

Author:ガボテンマサ
どうわへようこそ
娘が幼稚園の時に創作したお話をアレンジして、少しづつアップいます。
読み続けるとどんどんはまっていく内容だと思います。

感想などお聞かせもらえればさらなる励みになります。
悪態でもかまわないので足跡を残してくださいね。

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